お知らせ

2024年07月01日

日本の農場堆肥における伝達性リネゾリド耐性遺伝子(optrAおよびpoxtA)保有腸球菌の検出

Transferable linezolid resistance genes (optrA and poxtA) in enterococci derived from livestock composts at Japanese farms

 

Fukuda A, Nakajima C, Suzuki Y, Usui M.
J Glob Antimicrob. Resist. 36. 336-344. 2024.
Doi: 10.1016/j.jgar.2024.01.022

 

リネゾリドは、ヒト医療において、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)などの多剤耐性グラム陽性菌感染症を治療するために最後の手段として用いられる抗菌薬である。伝達性リネゾリド耐性遺伝子(optrA、poxtA、cfr)は、世界中の様々な由来(動物を含む)から検出されており、公衆衛生上の大きな懸念となっている。しかし、日本におけるリネゾリド低感受性グラム陽性菌とリネゾリド耐性遺伝子の存在に関する情報は限られている。そこで、日本の農場環境におけるリネゾリド低感受性グラム陽性菌と伝達性リネゾリド耐性遺伝子の存在を明らかにするために、豚および牛農場の堆肥から分離されたリネゾリド低感受性腸球菌について、詳細な性状解析を実施した。

堆肥から分離された103株の腸球菌のうち、12株がリネゾリドに対して低感受性を示した(2株が耐性(MICが8mg/L)、10株が中間耐性(MICが4mg/L)で、いずれも豚農場の堆肥から分離)(図1)。これら12株は、プラスミドまたは染色体上に伝達性リネゾリド耐性遺伝子を保有していた(5株のoptrA陽性E. faecalis、6株のpoxtA陽性E. hiraeまたはE. thailandicus、および1株のoptrAおよびpoxtA陽性E. faecium)(図2)。optrAおよびpoxtAを保有するプラスミドは、他国で以前に報告されたものとほぼ同じプラスミドであった。さらに、これらのプラスミドは、E. faeciumおよびE. faecalis間で伝達可能だった。optrAおよびpoxtA陽性のE. faeciumは、高リスクの多剤耐性クローンとして知られるST343(CC17)に属していた。また、染色体上にoptrA遺伝子を持つE. faecalisは、ST593であった。

リネゾリドは、家畜には使用されていないが、伝達性リネゾリド耐性遺伝子をコードするプラスミドは、家畜で使用される抗菌薬によって選択される可能性がある。今回、家畜の堆肥から分離された様々な菌種の腸球菌が、世界的に拡散しているプラスミドおよび多剤耐性の高リスククローンであったことから、家畜がリネゾリド耐性遺伝子のレゼルボア*として機能する可能性がある。今後、日本においても、これら耐性遺伝子の拡散には公衆衛生上特に注意が必要である。

 

*レゼルボア:病原巣のこと。病原体が自然界で本来生息する場所をいう。動物の場合もあるし、それ以外のこともある。

 

臼井 優(酪農学園大学)