お知らせ

2022年10月24日

重金属及び放射性物質汚染地域で捕獲された野生ネズミの腸内細菌叢とレジストーム*の解明

Unveiling the gut microbiota and resistome of wild cotton mice, Peromyscus gossypinus, from heavy metal- and radionuclide-contaminated sites in the Southeastern United States
Thomas, J. C., Kieran, T. J., Finger, J. W., et al.,
Microbiol. Spectr. 9(3):e0009721. 2021.

野生動物における薬剤耐性遺伝子と金属耐性遺伝子の出現、維持、拡散のシステムは解明されていないことが多い。これらを研究することは、ヒトと動物への脅威である新興感染症や人獣共通感染症の発生予防につながる。
重金属または放射性核種、その両方に汚染された地域に生息するマウスの腸内細菌について16SrRNAのアンプリコン解析とメタゲノム解析を行った。

その結果、重金属や放射線による人為的なかく乱が薬剤耐性遺伝子と金属耐性遺伝子の共耐性**に影響を与えている可能性があることが明らかとなった。さらに金属耐性遺伝子の存在量と多様性に影響を与える因子は、重金属汚染よりも放射性核種による汚染によるものである可能性が高いことが明らかとなった。また、環境中の薬剤耐性遺伝子が、可動性遺伝子によって野生動物に水平伝播していることも示すことができた。今回の研究は、野生ネズミの腸内細菌への重金属と放射性核種が与える影響について調べた初めての研究で、環境因子による薬剤耐性細菌の影響について新たな見解を示した。

今回の野生ワタネズミを捕獲した場所は、過去に核兵器を製造しており、放射性物質と重金属の両方に汚染されていたという、特殊な環境の調査であり、得られた結果は、非常に興味深い。環境における薬剤耐性菌及び耐性遺伝子の制御については、環境因子と野生動物の動きが予測することが難しいため、予想外のことが起こりうる。この研究のような特殊な環境での実験データを蓄積することは、野生動物を含む環境での薬剤耐性問題の制御のための重要な知見となるだろう。

*レジストーム、病原性細菌に限らない全ての細菌コミュニティにおける薬剤耐性遺伝子を表す。
**共耐性、複数の異なる系統の抗菌薬に耐性を示すこと。

(酪農学園大学 臼井 優)