お知らせ
2026年02月16日
日本の市販豚肉におけるメチシリン耐性Staphylococcus aureusCC398の汚染率とその遺伝学的特徴
Prevalence of methicillin-resistant Staphylococcus aureus in retail pork in Japan and genetic characterization of lineage-specific ΨSCCmec and novel ccr gene complexes in clonal complex 398
Sugiura M, Sugiyama M, Sasaki Y, Hisatsune J, Sugawara Y, Sugai M, Asai T.
Int J Food Microbiol. 449, 11605. 2025.
https://doi.org/10.1016/j.ijfoodmicro.2025.111605.
メチシリン耐性Staphylococcus aureus(MRSA )CC398*は、近年、日本の豚農場において主要な家畜関連型(livestock-associated:LA)MRSA**の一系統として検出されています。これまでに、日本国内の豚農場およびと畜場におけるMRSAの検出状況は調査されてきましたが、市販豚肉における汚染状況は明らかではありませんでした。そこで、市販豚肉におけるLA-MRSA CC398の汚染率を調査するとともに、その薬剤感受性および遺伝学的特徴について解析しました。
2021年から2022年にかけて、市販豚肉385検体(国産268検体、輸入117検体)を収集し、MRSAの分離同定を行いました。結果、MRSAは全体の3.1%(12/385)から検出されました(表1)。陽性検体の内訳は、国産豚肉で4.1%(11/268)、輸入豚肉で0.8%(1/117)でした。分離された12株はすべてLA-MRSA CC398と同定され、メチシリンおよびテトラサイクリンに耐性を示し、一部の株はさらにクロラムフェニコール、エリスロマイシン、レボフロキサシンにも耐性を示しました(表2)。
系統解析の結果、日本の豚由来ST398株は5つの主要クラスターに分類され、市販豚肉由来の12株はクラスター2〜4に分布していました(図1)。Staphylococcal Cassette Chromosome mec(SCCmec)構造解析***により、クラスター3および4に属する多くの株では、カセット染色体組換え酵素(ccr)遺伝子複合体(type 5)を含む約50.3 kbの領域が欠失しており、「ΨSCCmec」として分類されました。一方、クラスター5の株は SCCmec type IVd を保有していました。
以上の結果は、LA-MRSA CC398の多様な遺伝子型が、日本国内の豚農場、と畜場、市販豚肉に広く分布していることを示しており、畜産分野が重要なリザーバーであることを示唆しています。他国では、家畜との接触歴がないヒトでのLA-MRSAの感染事例も報告され始めています。今回の研究で示されたように、市販豚肉がLA-MRSAで汚染されていたことは、他国のように家畜との接触歴がないヒトも、食肉を介してLA-MRSAに感染する可能性があることを示しています。今後、ヒトにおける検出状況を明らかにするとともに、日本においてLA-MRSAが、これ以上拡散しないような取り組みが必要となってくると思われます。
*CC398; 家畜(特に豚)に関連して広がったMRSAの系統群。特に国際的に拡散している。
**家畜関連型MRSA; 主に豚や牛、鶏などの家畜に定着・拡散しているメチシリン耐性Staphylococcus aureusで、主に畜産従事者を介してヒトにも伝播することがある。
*** Staphylococcal Cassette Chromosome mec(SCCmec)構造解析; MRSAの耐性遺伝子 mecA(または mecC)を含む可動性遺伝因子SCCmecのタイプや構成を調べ、菌株間の違いや由来を明らかにする解析。これによりMRSAの系統関係や伝播経路、進化の過程を推定できる。
臼井 優(酪農学園大学)



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