お知らせ

2025年11月25日

南米におけるヒトでのStreptococcus suis感染症、1995-2024

 

Human Streptococcus suis infections, South America, 1995–2024

 

Bakpatina-Batako MVDP, Li K, Lacouture S, Cipolla L, Gianecini A, Prieto M, Gottschalk M, Fittipaldi N.
Emerg Infect Dis. 31, 1277-1286. 2025.
doi: 10.3201/eid3107.241835.

 

Streptococcus suisStreptococcus suisは豚の病原体ですが、ヒトに対しても髄膜炎、敗血症などを引き起こす人獣共通感染症の原因菌です。特に、豚や豚製品に密接に接触するヒトや、豚肉を用いた料理を摂食したヒトでの感染(豚連鎖球菌症)が報告されています。S. suisは表現型的にも遺伝学的にも非常に多様で、莢膜に対する血清学的反応に基づいて29の血清型に分類されます。また、遺伝学的には2,900を超えるシークエンスタイプ(ST)が定義されています。マクロライド系、リンコサミド系、テトラサイクリン系抗菌薬に対して自然耐性を示し、近年はβ-ラクタム系抗菌薬に対する耐性株の出現も報告されています。

ヒト感染の大部分は血清型2によって引き起こされます。ヒト感染は主に東アジアおよび東南アジアで報告されています。WHO西太平洋地域事務所は2005年に中国四川省において患者数215人で死亡者数39人の集団発生を報告しています。ヨーロッパにおいては、職業病とみなされ、アジアほど多くの報告はありませんが、報告があります。北米では大規模な養豚場が存在するにもかかわらず、報告された症例はこれまでに10例未満です。

一方、南米での包括的な報告はこれまでにありません。この論文では、アルゼンチンで新たに確認されたヒト感染症例を提示するとともに、南米における既報の症例について総括し、南米におけるS. suis 感染症の疫学的および臨床的特徴を評価しました。

南米における入手可能な報告を精査し、アルゼンチン、ブラジル、チリ、仏領ギアナ、ウルグアイでのS. suis感染症例を確認しました。さらにアルゼンチンから新たに8例の感染を確認し、南米でこれまでに報告されたヒト感染症例の合計は47例となりました。47例のうち、40例(85%)が髄膜炎、2例(4%)が中毒性ショック様症状、2例(4%)がショックを伴わない敗血症、1例(2%)が関節炎、1例(2%)が心内膜炎でした。致死率は4%(2/47)でした。S. suis感染は、これまでの他地域での報告と同様に、主に豚や豚肉との直接接触に関連していましたが、一部は加熱不十分な豚肉の摂食後に発生していました。

系統解析の結果、アルゼンチンで分離された株は2つの明確なクレード*に分かれてクラスター**を形成していました(図1)。両者はいずれも他地域の分離株とは離れていました(ただし、スペイン由来の1株のみが、アルゼンチンのサブクレードの1つと密接にクラスターを形成)。そのため、アルゼンチンで分離されたS. suisはアルゼンチン国内で独自に広がった可能性があります。

次に、S. suis感染症の発生と各国の養豚産業の規模の関連について解析を行ったところ、南米におけるS. suisヒト感染症の報告数は、各国の養豚産業の規模とは相関していませんでした(図2)。世界有数の豚肉生産国であるブラジルは4千万頭以上の豚を飼養していますが、報告されたヒト感染例はこれまでにわずか5例でした。対照的に、豚の飼養数が500万頭とかなり少ないアルゼンチンでは29例が報告されています。アルゼンチンでは過去20年間で養豚業が急速に拡大し、2005年から2015年の間に豚の飼養数は2倍以上に増加しました(図2)。しかし、バイオセキュリティ対策の導入が限られた小規模農場も依然として一般的であり、感染例数の多さに寄与している可能性があります。

日本においても、S. suisの感染症の報告は散発的ではありますが、たびたび報告されています。また、病変の有無にかかわらず、豚から高頻度分離されることが報告されています。したがって、日本での感染例も豚や豚製品に職業的に関わる人が大部分であるため、特に養豚産業に従事する人は注意が必要な人獣共通感染症となります。

 

臼井 優(酪農学園大学)

 

*クレード: 進化系統樹において、共通の祖先から派生したグループを指します。

**クラスター: 遺伝子型が似ている株の集まりを指します。